夕方17時を過ぎて、一件の振込みを思い出した。
それで会社を出て、近くの商店街に向かった。
その行く途中の踏切で。
まもなく電車がくる。と、その時だった。
対岸の踏切バーの少し左に目をやると、レールの側におばあさんが。
…え。
初見はとても驚いた。「…人!」と。線路スレスレだったから。
というか踏切内だから。
おばあさんだった。おばあさんは、線路に咲いた花を摘んでいた。
(あぁ、花が摘みたかったのか)
両岸の踏切にいた人も皆、そのおばあさんを見つけてやはり驚いていた。
電車は始め、おばあさん側の線路を通過し、続けて反対車線で一本通過した。
本当にひやりとしていた。多分、そこにいた人、ひやりとしていた。
おばあちゃんは線路の横に避けてじっとしていた。ギリギリだった。
通過する電車は続けて汽笛を鳴らした。
ー
おばあさんのところへ行こうと思った。
カンカンカンが鳴り終わって、バーが上がる。
ひとりのおじさんが渡り際に、
「だめだよ!早く出て!おばあちゃん。そんなところ、入っちゃだめだって!早く出て!」
おばあちゃんはぽかんと聞いていた。
踏切を渡って、おばあさんのいる方へ。
「おばあちゃん、こちらへ来れますか」
「…花があるのよ。家から見えるから知ってたのよ。今だって私はちゃんとよけていたのよ。ちゃんと」
「うん、そうですね。でもね、今はあぶないからね。こちらへ来れますか」
「。」
踏切から出てきた。
大声で叫んだおじさんは「線路の中なんだからさ!」
と言って、私と目が会うと去っていった。
おばあさんは目が泳いでいて、落ち着きがなく、しばらく黙っていた。
そして「あんな風に言われたこと、なかったのよ」と言った。
「そうか。きっとおじさんは心配だったんです。ここ、電車が沢山くるからきっと心配なんです」
「私、家から毎日見てるの。だからよく知ってるのよ。いつも花が咲いていて、採れるって知ってるの」
知っている。
私も一年前に同じ花を摘んだ。線路の外からだったけれど。
5分くらいおばあさんと立ち話をしてたら、目がさめたように
「…あなたどちら様?どうしてここに?」と聞かれたので
郵便局へ行きます、おばあさん気をつけて、と言って去った。
おばあさん「ごめんあそばせ」
なんかふわついた、喜怒哀楽どれにもくくれない変な気分。
振込は支店名がわからず不発。
もう不発弾の気分で会社に引き返す。
踏切まで引き返し、おそるおそる線路内を見る。
おばあさんはいない。
よかった。
そうして踏切が上がるのを待っていたら、
向かいの家のベランダから、あのおばあさん。
…あ。
おばあさんは無表情のまま、持っていたバナナを剥いて、
その皮を線路に思い切り投げた。
線路の間に、ぼたり。
…え。
そして、線路を眺めてバナナを食べていた。
目が合ったかどうかの刹那の極みで、私は目をそらして会社へと戻った。
オウ、シュール。それ以外のなんでもね。
tone
0 件のコメント:
コメントを投稿