隣に立つ中年男性は、この電車に乗って何分経ったのだろうとか。
ドアの側に立つ女子高生の携帯ストラップは、何月何日からそこにぶら下がっているんだろうとか。
私が今手にしている本はこれまで何カ国の人が読んだのだろう、とか。
これまで自分が妄想に費やした時間を合計すると、生きた時間の何パーセントになるんだろうとか。
知らなくても困りはしないことばかりが目に映る。
だから電車に乗り込んですぐに本を開いて、
気づけばたいしたページも進まないまま
最寄り駅手前まで着いてたよ。
「さ、そろそろ行きましょうよ」
「行くってどこへ?」
「忘れたの?春と夏の間は夜に散歩しようって決めたでしょう」
「そうだったかな。実はよく覚えてないんだ、去年のことは。つらい年だったからね」
「人は大切なことを忘れていくものよ」
「でも君は散歩の事を覚えている」
「忘れたのね。私、その時は「どうかしら。行きたくなるかは春が終わらないとわからないわ」って言ったのよ」
明日は散歩したくなる気がするから、晴れてくれないかな。
tone
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